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壊れた回転モク馬-vol.28-

遊園地のシンボルと言っても過言ではない

メリーゴーランド

気高さをまとったその木馬は

いつも自信に満ち溢れている

煌びやかなステージ

軽やかなメロディー

それらに合わせて颯爽と歩く姿は

まさにサラブレッド

うちのモク馬とはまるで違う

気高さもなければ自信もない

いつも『何か』に怯えて

その『何か』から逃げる為に

回転と暴走を繰り返す

止めたくても止められない

なぜなら、理性が吹っ飛んでいるから

『何か』に耳を塞がれたモクには

誰の声も届かない・・・

そんなモク馬にも誇れるものがある

それは気高いサラブレッドにはない元気と愛嬌

それだけは負けない

絶対に

そんな可愛いさ溢れるモクは小さい頃から

眠たくなるとぐずつきがひどかった

いつからかそのぐずつきはイラ立ちに変わり

事あるごとに尾追いをするようになっていた

一人では決して寝ないモク

寝かせる為にはどうする?

一緒に寝るしかない・・・

寝たからと言って平和になる訳ではない

イライラしながら起きているよりは良いだろう

イライラしているモクを見るよりは良いだろう

そんな手探り状態の解決策しか

私には思いつかなかった

寝ている時の尾追いのきっかけは些細なこと

私だって生きている

鼻水が出れば鼻をすするし

体を動かせばポキッと鳴る

そんな小さな音が尾追いに繋がっていた

それなら音を鳴らさなければいい話

そう考えた私はモクと横になるやいなや

石のように固まり続けた

だが、そんな努力も虚しく・・・

夢を見るのか急に飛び起きて

結局は尾追いをするのだった

あまりにも突然のことで反応できず

モクの顔の横にある私の手は

いつもガブっとひと噛みされていた

一度でも熟睡すれば私が離れても眠るのだが

それまでが長い

私の体は悲鳴をあげていた

だが反対に心は満たされていた

私にべったりとくっついて眠る姿が

愛おしくてたまらなかった

常に怯えてイライラしているモク

どれだけの神経をすり減らして

生活をしているのだろう

そんなモクに私が出来るのは添い寝だけ

いつか治る

この時の私はそう信じて疑わなかった

モクひとりでねたくない