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遅咲き花は散り知らず-vol.-84

ドンとそびえる一本の木を見上げて、

おじぃさんは言った。

「小さい頃から見てっけど、こいつが花を咲かせたのはこれが初めてじゃ。」

ガチガチに踏み固められていた雪が

ようやく溶け始めた頃

穏やかな時を過ごしていたはずのモクが

凶暴化していた

まるで冬眠から覚めた野生動物かのように…

がおー

季節の変わり目によるものなのか?

勢いのある尾追いが突然増えたのだ

近頃とても平和だっただけに

私の心のダメージは大きく

噛まれ続けた手もボロボロになっていた

目に見える傷と心の傷が癒えた頃には

季節はすっかり春になり

モクの尾追いは落ち着きを取り戻していた

それと同時に特技を習得したようだ

その名も【タッチスルー】

小さい頃からボディタッチを極度に嫌がり

なんとか少しずつ触れる部分を増やしてきた

だが、お尻、しっぽ、太もも、お腹だけは

少し触れただけで尾追いをするので

どうしても触ることができなかった

ところが最近はなぜだろう?

ちょこちょこっと触っても『スーッ』と

やり過ごすようになったのだ

突然訪れた大きな変化に感動すると同時に

優越感にひたりたい私はある事を試したくなった

“旦那さんが触ってもやり過ごすのだろうか?”

私「見てみて!しっぽ触っても怒んないさ!触ってみ?」

旦那さん「すげぇ!」と、モクのしっぽにタッチ

モク「ゔぅー…」

旦那さん「………」

私「パパはダメだってー!モクちゃんかわいいねー(高笑い)」

この特技は私限定のようだ

せいかくわるっ

どうしても減らなかった夜中の尾追いも

今ではほとんどと言っていいほどやらなくなった

悪夢を見る頻度が減ってきたように思う

心の平和が闇に勝ったのだろうか?

三年前、かかりつけの先生はおっしゃった

『モクちゃんは、受け入れることができていないだけ。色々なことに慣れていけば穏やかに暮らせるようになりますよ。』

まさに、その言葉の通りだった

言われた時は一日を終えることに手一杯で

そんな未来を想像する余裕もなかった

だが、モクは確実に変わっている

近頃ようやく本来のモクに会えた気がする

三年も経ってから

こんなことを言うのもなんですが…

『初めまして、とても素敵な子ですね。

お会いできて光栄です。』

モク、箱入りだったー

「見てみぃ。あれから一年も経ったのにまぁだ咲いとる。こいつ散ることを知らねんじゃねぇかなぁ。」と、

冒頭に登場したおじぃさんは言った。