ドンとそびえる一本の木を見上げて、
おじぃさんは言った。
「小さい頃から見てっけど、こいつが花を咲かせたのはこれが初めてじゃ。」
ガチガチに踏み固められていた雪が
ようやく溶け始めた頃
穏やかな時を過ごしていたはずのモクが
凶暴化していた
まるで冬眠から覚めた野生動物かのように…
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季節の変わり目によるものなのか?
勢いのある尾追いが突然増えたのだ
近頃とても平和だっただけに
私の心のダメージは大きく
噛まれ続けた手もボロボロになっていた
目に見える傷と心の傷が癒えた頃には
季節はすっかり春になり
モクの尾追いは落ち着きを取り戻していた
それと同時に特技を習得したようだ
その名も【タッチスルー】
小さい頃からボディタッチを極度に嫌がり
なんとか少しずつ触れる部分を増やしてきた
だが、お尻、しっぽ、太もも、お腹だけは
少し触れただけで尾追いをするので
どうしても触ることができなかった
ところが最近はなぜだろう?
ちょこちょこっと触っても『スーッ』と
やり過ごすようになったのだ
突然訪れた大きな変化に感動すると同時に
優越感にひたりたい私はある事を試したくなった
“旦那さんが触ってもやり過ごすのだろうか?”
私「見てみて!しっぽ触っても怒んないさ!触ってみ?」
旦那さん「すげぇ!」と、モクのしっぽにタッチ
モク「ゔぅー…」
旦那さん「………」
私「パパはダメだってー!モクちゃんかわいいねー(高笑い)」
この特技は私限定のようだ
![](https://mokutokurasu.com/wp-content/uploads/2023/05/image-1024x943.jpg)
どうしても減らなかった夜中の尾追いも
今ではほとんどと言っていいほどやらなくなった
悪夢を見る頻度が減ってきたように思う
心の平和が闇に勝ったのだろうか?
三年前、かかりつけの先生はおっしゃった
『モクちゃんは、受け入れることができていないだけ。色々なことに慣れていけば穏やかに暮らせるようになりますよ。』
まさに、その言葉の通りだった
言われた時は一日を終えることに手一杯で
そんな未来を想像する余裕もなかった
だが、モクは確実に変わっている
近頃ようやく本来のモクに会えた気がする
三年も経ってから
こんなことを言うのもなんですが…
『初めまして、とても素敵な子ですね。
お会いできて光栄です。』
![](https://mokutokurasu.com/wp-content/uploads/2023/05/img_4789-1024x768.jpg)
「見てみぃ。あれから一年も経ったのにまぁだ咲いとる。こいつ散ることを知らねんじゃねぇかなぁ。」と、
冒頭に登場したおじぃさんは言った。