それは一通のハガキから始まった・・・
恐怖で体が震え
私は夢中でモクを抱きしめた
何事かと問いかけるモクにこう答えた・・・
「《ワクチンのお知らせ》だってー」
噛みつきがひどい上にメンタルが弱いモク
我が家にとって病院での注射は一大行事
だが、飼い主のドキドキはわんこに伝わるという
揺らいではいけない
そんな思いで病院へ向かった
そして、あれよあれよと診察台へ
モクは目玉が飛び出そうなくらい震えていた
そして身を守り始めた
-ここはアマゾン川
-診察台はイカダ
-私たちはワニ
モクはワニが近づくことを断じて許さなかった
歯を剥き出して口を『パクパク』
なんと!モクもワニだった・・・ややこしいわ!
川のワニ達はヘロヘロになりながらも
なんとかモクワニにカラーを着けることができた
そして、いよいよ・・・
『チクッ』
注射を打たれている間も終わってからも
モクワニはずっと唸り続けていた
嫌な予感・・・
車の中でのモクワニは殺気に満ちていた
そして家に着いて
ハーネスを外そうとした時のこと・・・
案の定、鬼の形相で噛みついてきた
そんなの慣れっこさ!
と、言いたいところだが
出来ることなら噛まれたくはない
どうにかこうにか流れる汗を拭いながら
隙をついて外すことに成功した
そうしてワニ物語は幕を閉じたのだった
そう思っていた・・・
ところがその後の二日間
モクはワニのままだった
手を近づけただけで噛みついてきて
体に触らせようとしなかったのだ
モクは必死に自分を守っていた
それが本能なのだろう
噛みつかれるのはもちろん怖い
だがそれよりも、そうせざるを得ない状況を
作ってしまっていることに胸が痛んだ
成長とともに恐怖に慣れ
衝動を抑えられる日は来るのだろうか?
郵便ポストに紛れている一枚のハガキ
その一枚には沢山の恐怖が詰まっているのだった